3 フラの神々

第三章 フラの神々

自然界のどんなものが神として扱われていたのでしょうか?そして古代ハワイアン達はそれらをどのようにとらえていたのでしょうか?古代ハワイアンにとって神は、ときに人間の姿をし、偉大な力を持ちながらも人間のような感情を持つ、それでいて人の上に立ち人間とは一線を画す存在でした。その姿は霧の向こうにぼんやりと見えたり、黒い影のように見えることもあれば、はっきりとした姿を現すこともあり、ただそこに佇んでいることもあれば、動いていることもあります。蔦がからんだ木や植物の姿であるだけではなく、鳥や鋭い爪の怪物、火の女神に削られた岩、人間、立ち昇る霞の姿をしていることもあります。神の姿は一つではないのです。ある人は、原生林の人気のない場所で若い女性に出会いました。彼女のどこか掴みどころのない美しさと醸し出される神秘的な聡明さに心地よさを覚え、まるで自然と一体となっているかのようでいて自然を統治しているその仕草に心を奪われ、言葉にせずとも伝わってくる威厳ある表情の魅力に引き寄せられたのです。もしかすると彼女はフラの女神だったのかも知れません。またある人は美しい女性の魅力に心奪われ、地面を掘って作ったイム(*22)で食材を料理しながら、彼女の前に豪華な食事を用意しました。彼女は目の前の料理には手を付けずに1時間ほどで姿を消しました。彼女がいなくなった後、イムを開けてみると中は空っぽになっていました。これもまたフラの女神かも知れません。更に、ある旅人が女神のように美しく微笑む女性に出会います。彼は報われることはないと知りながらも彼女に熱を上げ、心を捧げました。ふと気が付くと、旅人は道端で岩を抱きしめていました。そう、これもまたもしかしたらフラの神様かも知れないのです。

高位・下位に関わらずフラの愛好者やダンサー達に崇拝される神はたくさん存在します。しかしその中でも女神ラカは特別な祈りと供物を捧げ、守り神アウマクア(*23)として崇めるられる存在です。人々はラカを称えて祭壇を作り、そこには彼女の美しさと偉大さを象徴した花と葉のレイを飾ります。森に住む女神ラカが喜んで姿を現し、それらを身に着けると信じられています。

ラカの住む家として人々が祈りを捧げる祭壇にラカが本当に存在していることを知らしめるものがもう一つあります。それは、ラカ自身を表す神聖なラマ(*24)の木塊。ラマはターメリックで香りを付けた黄色いタパで包まれ、祭壇の目立つところに置かれています。

(*22)イム:伝統的なハワイアンのオーブン。地面に穴を掘って石で囲って作ったもの。

(*23)アウマクア:先祖代々の神

(*24)ラマ:堅くて、綺麗な木目の白く美しい木。聖域を作ったり、浄化に使われたりする。

 ラカはイエイエと呼ばれるマイレの神様、または第一章・第二章でも述べたように野生の木の成長を促す神としても祀られています。他にも“豊穣の神ロノの姉妹か妻”“天上界の神々と共に力を合わせる存在”“クムフラ(*25)(舞踏の指導者)”“喜びを生み出す神”“病に苦しむ人に健康をもたらす預言者”“生命を与える神”などの言い伝えがあります。ラカへの祈りの一つで、ラカが祭壇の代わりに信仰者の体に入ることがあります。ラカは宿ったその体の声、手、足など体の全部を使って信者を導きます。また、ラカは大勢いるペレの家族の友人だったのではないかと言われています。著者が多くの祈祷師に会い調べた限りでは、ペレの祭壇にラカが臨席することも名を連ねることもありませんでしたので、親戚ではないと思われます。

 ハワイ神話の神々と古代ギリシャの神々を比べてみると、ラカは歌舞の神・テルプシコレや音楽の神・エウテルペに非常に近い存在であることがわかります。ある歌の中で、ロノはラカの夫として出てきます。それはギリシャ神話の太陽神・アポロに似ています。

 カーネ、クー、カナロア(*26)、ロノそしてクープルプル(*27)を始めとする、森に住む多くの神々もまた神話としてよく登場し、そこからそ彼らの関係性や様子が見えてきます。まず、全ての神々は家族で、血縁関係が無い場合婚姻関係を結んでいます。次に、ハワイの神々において特徴的なのが、神もまた人間と同じように嫉妬に苦悩し葛藤しているというところです。もし神々を嫉妬させるようなことがあれば、その感情が爆発することもありますし、自然を司るキニアクア(*28)と呼ばれる神々に不敬があると、インド神話の猿の姿をした神のように災いを引き起こすことにもなります。

 著者がこれまで話を聞いたクムフラ(フラの指導者)や芸術としてのフラの愛好家によると、ラカがフラの守護神として唯一無二の存在であるという意見が圧倒的ですが、カポをフラの女神と力説する少数派の意見もあります。カポについては25ページで詳しく述べることにしますが、このカポを支持する少数派の意見は、カポに否定的な多数派の見解よりも注目するべき事実です。カポという、フラの守護神として祭壇に祀られるもう一つの存在がそこにあるのです。

(*25)クムフラ:フラの指導者または先導者。近代の学校長もクムフラと呼ばれる。

(*26)カナロア:カーネ、クー、ロノ、カナロアはハワイ神話の4大神。

(*27)クープルプル:カヌー職人の神

(*28)キニアクア:一般的には、ブラウニー、エルフ、コボルトのような小妖精の総称として使われます。22ページのプレ・クアフ(祭壇への祈り)を見るとわかりますが、“キニ”は40,000、“レフ”は400,000、“マノ”は4,000を意味する言葉です。しかし、面白いことにハワイアン達はこれらの言葉を数値としては使っていません。

 カポはペレの妹で、ハウメア(*29)の娘です。ラカのように、時には森を彷彿とさせる雰囲気をまとった森に住む神で、フラをする者に崇拝されていました。彼女は色んなものに姿を変え、人々の前に現れます。毒の神カライパホアの妹になるように言われ、時にはカフナ(*30)の儀式のメッセンジャーやアウマクア(*31)として召喚されることもありました。

(*29)ハウメア:古代の神であり、祖先。ワーケアの家系の6代目。

(*30)カフナ:呪術師。形容詞的意味では、熟練した職人を指します。例えば、カヌー職人はカフナ・カライ・ワッア、薬剤師や医者をカフナ・ラパッアウと言います。

(*31)アウマクア:Joseph S. Emerson が書いた、1892年4月7日のHawaiian Historical Societyによると、アウマクアはハワイの下位神。

 残念なことにカポは、色欲の悪魔の行いに引き込まれ関与していたこともあり、不名誉な呼ばれ方をすることもありました。しかしながらこれは一時的な気の迷いで、生涯続けていたものではありません。カポに関する興味深い話の一つに、豚の姿をした獣神カマプアアにまつわる出来事があります。豚の神がカポの姉ペレに突然襲い掛かりペレの命が危機に陥った時、カポはカマプアアの本能を惹きつけるような物を差し出して誘き出し、ペレの命を救ったのです。

 文学、芸術、科学等を支援する側面で、好色家の裏の顔も持っていたロシアの女帝キャサリンのように、ハワイの神カポもある時は優雅で美しい天使、しかしまたある時は暗く好色な悪魔という二つの顔を持っていたのだと思われます。

 また、古代ローマの大地母神アルマ・マータは豊穣の神や喜びの神であったりする反面、嵐や地震を起こし、破壊を招く炎の刃を持つ悪魔でもありました。彼女やカポのように相反する2つの側面を自然の中にも見つけられると思いませんか?

 そしてもう一人フラの神として崇拝される存在があります。それはペレの妹、ヒイアカです。

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